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2020年11月8日 石井宏樹/トルコ語経済記事翻訳者

トルコリラ動揺 2020年9-11月の進展

2020年9月以降、トルコリラの為替を巡る環境が大きく悪化している。トルコ中央銀行の9月度会合による2年ぶりの政策金利引き上げに市場は好意的に反応したが、リラ安の改善にはつながらなかった。9月下旬以降まずナゴルノカラバフを巡る紛争を皮切りに、東地中海、リビア、シリアでの対立など地政学的な問題が噴出した。10月会合では更なる利上げが期待されていたが、当初の期待を裏切られ金利据え置きが決定されるとトルコ市場への信任と関心が一気に減退した。ロシア製S-400の試射問題、米大統領選の開票を控えて、リラの対外レートは軒並み下落した。今後も懸念を払拭するようなポジティブな要素はなく、年初くらいまでは一進一退をする状況は続くだろう。

政策金利を巡る政府と中央銀行の不連携の原因はどこにあるのだろうか?筆者は基本的な金融観の違いにあると考えている。日本経済新聞の記事等において現職大統領であるエルドアン氏の金融観は“独特”であると形容されるが、彼の金融観はイスラム教のシャリーアに基づいている。利子は不労所得であり、ハラール(禁忌)であり、一定程度に抑えられなければならない。経済成長と利子の低減には重要な相関関係があると…しかし、現実においてはトルコ中銀は世界各国の株式の動向を見ながら金融政策を決定しなければならない。トルコ市場の成長は事実であるが、世界トップクラスの”政策金利プレミア”を乗せて資金確保をしているのもまた現実なのである。政権からの「指示」に伴って意思決定の柔軟さを失い、結果として数々の施策が後手に回ってしまっていることは想像に難くない。

次は内外の情勢観の違いである。トルコの国内市場は近年の政治混乱を経てもある程度堅調に成長している。トルコ国内の実感としては若年人口も多い「これからの国」という認識も存在する。従って、この前提に立った時は、政策金利の引き上げを一定程度に抑え、スワップ取引の上限枠拡大などで短中期的な資金の獲得を目指す、という戦略は決して誤りではない。しかし、国外から見た時は国内外での衝突が否が応でもクローズアップされてしまう。東地中海、シリア、リビア、南コーカサスの問題はどれも一朝一夕に片付くものではなく、来年まで影響は続くだろう。これらの問題はキリスト教徒主体でなおかつ自由主義を標榜するEU諸国との間で深刻な対立を引き起こし続けるだろう。主要顧客の多くを欧米に持つトルコ企業にとっては苦境が続くだろう。

目先では歴史的なリラ安を追い風にして各企業は海外輸出を目指すであろうが、情勢の進展次第でどの方面に向かっていくかは分からない。今年いっぱいはトルコの経済情勢から目を離せない状況が続きそうだ。

以上