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2014年10月15日

トルコの料理学校を視察

トルコ料理が世界の三大料理であることを知らない人はいない。だが、「トルコ料理ってどんなの?」との質問に答えられる人は先ずいない。都内でもトルコレストランの数が増えている。六本木や明治神宮前、アメ横あたりに本場トルコの味と称したケバブ屋もよく見かける。今回、イスタンブールの料理学校を三つ訪ねた。最初にトルコの食について少し触れておきたい。

トルコの食文化

長い歴史と独特の伝統に育まれたトルコは、「食の宝庫」でもある。トルコ料理の地位は中華料理、フランス料理ほどではないが、イスラム圏の中では豊かで洗練された食文化と料理体系をなしている。イスラム世界とオスマン帝国の影響を受けるところ大である。15世紀末のオスマン朝最古の年代記によると、当時のご馳走はケバブと砂糖程度とのこと。16世紀に入り食材の種類が増え、インドや東南アジアからの香料の数も飛躍的に拡大。庶民の食卓にもその豊かさが反映していった。18世紀には料理書が出て、トルコの食文化が料理書を生むほどに成熟していった。

トルコの食文化の特色は概略下記の通り。

  • 魚を好む人が多いが、「羊肉」を中心とした肉料理
  • ヨーグルトやナッツ類が料理に使われる
  • 地中海、黒海などの海産物が使われる
  • 冷菜には地中海周辺で取れるオリーブオイル、温菜にはバターが好まれる
  • アラビア周辺から広がった小麦粉とアジアの主食である米の両方を使うなど、東西の食文化を融合させた多彩な素材、味、調理法をもっている。

トルコの料理本を紐解いてみると、今日のトルコ料理は材料と調理法に分類されている。料理書の中でトルコ料理が3分の2以上を占め、残りの3分の1を占めるのが洋風料理であるが、一般家庭では作られることは少ない。しかし、近年のトルコの急速な経済成長、生活様式の変化、意識変化に伴い、トルコの既存食文化に海外からの食が急速に踏み込みはじめ、今のトルコの食文化・食生活は、かつての日本が経験したように着実に様変わりしつつある。

Istanbul Kitchen's Academy

このアカデミー自体、コンパクトというか小振りで暖かみを感じさせてくれる。小さいが学校の庭で野菜らしきものをつくっている。建物の1階は店舗になっている。サラダや惣菜らしきものが並んでいる。Kitchen’s Cafeだ。

さて、トルコの料理学校とコンタクトを持ちたかったのは、近い将来、日本の食材や食品をトルコで紹介し普及啓蒙して行く計画を想定してのこと。そのとき、現地の料理学校とのコラボは必須となる。そのときの基盤づくりの一環であった。トルコは食べるものに対して、概して保守的である。海外生活に慣れている人たちにとっては新しいものへの好奇心は旺盛だが、一般の40代・50代以上の人たちにとってはこれまで慣れ親しんだ自国・地元料理が一番である。従って、日本のものをトルコにはそのまま持ち込むことは難しいし、何も努力しなければ日本の食材がトルコの食卓にのぼることは先ずありえない。日本食レストランも多少イスタンブールなどで見かけるが、その普及のスピードはアメリカやヨーロッパに比べかなり鈍く遅い。ちょうど、このトルコ視察前に、300以上の日本食レストランがひしめき合うワルシャワ訪問の後だったので尚更そう感じるのかもしれない。イスタンブールの日本食レストラン、例えば、ITSUMIに入るとお客の大半が日本人で現地の人は少ない。ことは簡単でないことは容易に想像がつく。

Istanbul Kitchen's Academy (IKA) ではシェフの養成を中心に、テーマに応じた料理レッスンの実施など、相談ベースでのリクエストにも対応して取り組んでいる。トルコの料理人にとって、日本の食材は未知である。目の前に日本の食材が置かれたとき、それをどう調理し料理するか、プロのシェフにとってはおおいに好奇心をくすぐられるに違いない。筆者はこれまでアメリカにおいて同様の企てを何度も経験しているが、新しい食材や新しい調味料が目の前に置かれたときシェフたちの目の色は変わる。調味料となる素材を例にとれば、欧米では酸味を出すのはせいぜいレモンとライム程度ではないだろうか。日本にはカボスもあればユズもあればミョウガもあれば・・・となる。出会ったことのない珍しい食材や調味料に対するシェフたちの興奮と好奇心はわれわれの想像以上で、恐らく、プロ魂に火がつく瞬間なのであろう。日本の「ダシ」は料理の基本中の基本だが、こういった基本を海外のプロシェフや学生たちに紹介し教えていくことが何よりも大切である。日本政府もクールジャパンと称して様々な食イベントを海外でやっているが、その当たりを見落とすと事業として空回りするだけである。その理由は簡単。基本のダシを海外シェフに叩き込み・教え込んでいくことが日本料理、日本の食材・食品の普及に大きく繋がるからである。料理は糖質、脂質、うま味成分によって味付けがなされる。うま味成分、つまりダシを使うのが日本料理の真骨頂であり、ゆえに、脂や糖を余り用いないがゆえに和食は健康的で日本人も世界最長寿国となり、「日本食はクール!」と海外から高い評価を得る結果となっている。

さて、IKAのシェフが特別にランチを振る舞ってくれた。筆者はトルコのブルガー小麦に興味があったので、それを所望した。トルコはケバブもいいが、魚料理はもっといい。ここ2年程、Foodex Japanのトルコブースでもブルガーの販促に力を入れているが、可能性大の食材とみている。もっと、日本で受け入れられてもと思うがなぜだろう。ブルガーをどう調理し料理するか、そのレシピの数が圧倒的に少なく認知も低い。ブルガー小麦とは挽き割り小麦のことを指す。たんぱく質を多く含む硬質小麦の仲間であるアンバー・デュラム小麦を全粒のまま蒸した後、粗挽きにしたものを言う。

この学校にはある方の紹介で訪ねたこともあり、配慮の細かい「おもてなし」をいただいた。魚料理にあうワインも用意してくれた。ファミリータッチの居心地のいい学校で、コラボについても積極的であった。男性の心を射るには胃袋からという諺があるが、プロシェフのトルコ料理とワインのおもてなしに私の心もすっかり射られてしまった。評価は丸二つ。

MSA - The Culinary Arts Academy

MSAは今回訪問した三つの中では、一番大きく組織だっている。生徒の数も600を超える。トルコ初という135名が入れるキッチンスタジアムもある。「アイアンシェフ対決」ができそうだ。一緒に写真をとっているのはアメリカのコーネルで勉強したここのヘッドシェフ。海外関連のオペレーション専門の担当もいる。全体を統轄しているGeneral Director とも会うことができた。協力関係の構築に向けてもすこぶる好意的であった。

ここの学校の売りとなっているプログラムに「東地中海&トルコ料理」のプロのスキルアップを図る2週間コースがある。学ぶべき5つの理由を挙げている。

  1. 東地中海&トルコ料理は世界で最も傑出した料理であること。東地中海料理は地中海の食文化の中で最も重要な柱の一つを形成。
  2. 東地中海の食文化はオスマン帝国の遺産によって、エーゲ海から北アフリカ、中東、メソポタミアに至る広範な食文化の影響を取り込み深く息づかせている。
  3. イスタンブールの王室料理であること。オスマン帝国は、地中海系ユダヤ人はじめ、アルメニア、イラン、アラブ、中央アジア、ギリシャの人たちの多様な食文化とも深い関わりと影響力をもっていた。
  4. トルコは東洋と西洋の結節点として、同時にスパイスルートの終点となるトルコのロケーションは極めて重要。
  5. アナトリア料理には料理の最も基礎となり影響力を有する料理技術があり、その技術は今日も使われている。

以上の通り、東地中海&トルコ料理を学ぶことは昔から伝わる調理・料理技術の習得ができることで、それらのノーハウや技術を今の料理に活かすことができる点が売りの一つとなっている。他にも「伝統的トルコ料理」「アナトリアの忘れ去られたレシピ」「トルコの伝統的なお酒・ラクの楽しみ方」「トルココーヒー、チャイの美味しいいれ方」・・・といった様々なプログラムを実施している。

学校内にレストランを持ち、5000冊以上の飲料分野の文献も図書館にある。24名の生徒が同時に学べるキッチンルームを3つ備え、料理の機器類はEU基準となっている。下の写真にある企業のロゴはこの学校を応援しているところ。何らかのドーネーションをしてくれた人たちの名前の中に日本人らしき名前もあった。

Istanbul Culinary Institute

さて、三つ目、最後の料理学校である。さながら、英語で言えば、”Last but not least” というところだ。ここのICIの責任者らしき男性が最初に出ては来たが終始、写真にあるニコニコした女性たちが店舗&学校内を案内し説明をしてくれた。そのお陰で実り多くも楽しい訪問となった。

ICIはトルコ&地中海料理の豊かな伝統を「学び・教え・普及」することを目的に設立された料理専門学校である。2008年の設立以降、様々なカリキュラムをトルコ国内外で料理を学ぶプロとアマチュアの両方に提供してきた。シェフスクール、料理のプロ向け資格プログラム、新規プログラム、一般向け短期の料理クラス、クリエイティブでコンテンポラリーな工夫や仕掛けを加えた料理など多岐に渡る。内容やレベルを分けて同時にレッスンができるように、キッチンは4つある。ICIはケータリングサービスをはじめ、その設備とスペースを活かしてプライベート・パーティ、新製品の発表、テーマ別ワークショップ&セミナーの開催、トルコや世界の料理デモ&試食会などを行っている。また、ICIは使用する食材にもこだわりをみせている。自然な環境で余分なホルモンやケミカルが含まれない北エーゲ海にあるSaros Bayの土地で様々な季節の野菜やフルーツ、ハーブなどを生産している。それらの多くは店内のレストランやケータリングで使用されている。

さて、トルコの料理学校、大中小の三つを見てきたことになる。三つに共通しているのは、(1)自前のレストランを建物の中にもっていること、(2)トルコ&地中海料理の歴史と伝統を重んじていること、(3)こちらの申し出に大変ポジティブで前向き協力的であること、であった。和食が昨年、ユネスコ世界無形文化遺産の登録を勝ち得たこと、2020年には東京でオリンピックが開催されることで、日本と日本食への興味関心は今後更に増すものと思われる。トルコでの日本食の認知をあげ、日本の食材・食品をトルコ国内で普及させるためには、こういった学校との協力・タイアップ体制の構築が有効である。日本料理のクラスを設けて、日本人シェフを送り込んで、トルコ料理に敬意を払いつつもトルコの土地にあった日本料理のメニュー・レシピ開発を何十・何百種類と行うことが大事なタイミングに入ってきたように思える。新しいものを導入し定着させるためには一過性のイベントや紹介努力ではなしえない。息の長い戦略性のもった取組みがなによりも必要である。

*弊社ではこういった取組みサービスをトルコと今後取り組んでいく予定である。サポートを必要とする企業様がいらっしゃれば、お気軽にご相談下さい。 E-mail: tonegawa@gm-group2.net